ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

けものフレンズのこと

 先日、とうとうアニメ「けものフレンズ2」の放送が始まった。一昨年からいろんなことがあって、どうなるものかとヤキモキしていたから、放送にこぎつけたことは(そしてそれが、良作を予感させるものであったことは)ファンとしてたいへん喜ばしい。

 嬉しいついでに、私がけものフレンズを応援する理由について、書いてみようと思う。

 私がけものフレンズを知ったのは、アニメ第1期の第5話が放送されたあとである。なにやら面白そうなアニメがあるらしいと聞きつけてニコニコ動画で一挙視聴し、見終わる頃にはすっかりけものフレンズの世界に魅せられていた。キャラクターデザインにも作中のフレンズの振る舞いにも動物の特徴がよく反映されていて、うまく作っているなと感心させられた。

 けれど、真剣にこのコンテンツを応援していこうと思ったのは、最終話が放送されてからしばらくあと、けものフレンズがきっかけで多摩動物公園サーバル舎に人が押し寄せている、というニュースを目にしたときのことである。

 サーバルはそれまで、動物園ではどちらかといえばマイナーな存在だった。知れば魅力的な動物ではあるものの、たとえば多摩動物公園であれば、ライオン、トラ、ユキヒョウといったメジャーなネコ科動物の陰に隠れてしまっていた。なにしろ、真向かいにいるのがチーターなのだ。学生時代住んでいた町は多摩動物公園に近かったからよく出かけていたけれど、サーバルの前で長時間足を止める人は、そんなに多くなかったと思う。当時の私は毎日動物好きとしか顔を合わせていないという環境だったので(今もたいして変わらないが)正確なところはわからないけれど、「サーバル」という名前を聞いて姿を思い浮かべられる人はあまりいなかったんじゃないかと思う。

 そんなサーバルを、けものフレンズがきっかけとなって観にくる人が大勢現れたということに、私は仰天した。しかも、そのなかにはそれまで動物に強い関心を抱いていなかった人たちまで含まれていたのだ。そんなの、NHKにもBBCにもナショナルジオグラフィックにもできなかった芸当である。けものフレンズというコンテンツは、こんなにも大きな力を持っているのかと驚嘆し、この影響力が長く続くように応援したい、と思うようになったのだ。

 あるものについて興味を持っていない人を、そのものに興味を持つように仕向けるのはことのほか難しい。たとえば川上和人さんの『鳥類学者、無謀にも恐竜を語る』という本は、著者のユーモアセンスがありすぎるおかげで鳥に興味がなくても恐竜に興味がなくても純粋に読み物として面白く、気がついたら鳥や恐竜についていろいろ知ってしまっている、というタイプの本であり、普段、書店で自然科学の棚の前に足を運ばないような人にこそ読んでほしいものであるが、まさしくその「書店の自然科学の棚に並べられている」という一点によって、その人たちには届かなかったりする。興味のある人と興味のない人の間には意外に高い壁がある。

 しかし、けものフレンズはその壁をぶち破った。深夜アニメをよく見る層に限ったことかもしれないけれどそれでも、壁の向こう側の人たちを動物園に連れてきた。それも、ジャイアントパンダやゾウやトラやライオンといったメジャーな動物ではなく、サーバルというマイナーな動物を前面に出して。動物が好きで動物園が好きな身としては、これに乗らないわけには行かなかった。なにしろ動物園は、多くの人が訪れることによってはじめて真価を発揮する場所だからだ。

 動物園には4つの役割があるとされる。レクリエーション、教育、種の保存、研究である。しかし、後ろの2つは副次的なものだ。種の保存や研究が目的であれば、一般に動物を公開する必要はない。つまり動物園という形態である必要はない。「生きた動物を展示する」という形態の施設なればこその重要な役割は、前の2つである。「生きた動物を前にして、楽しみながら学べる」ことにこそ、動物園の存在意義はある。

 しかし、当然のことながら、その役割は、動物園に人が来てくれなければ果たすことができない。「動物好きでなくても楽しめるはずの生物学の本」と同様だ。その動物園でどれほど素晴らしい展示が行われていたとしても、見にくる人がいなければその素晴らしさが伝わることは決してない。来園者が多くとも動物好きのリピーターばかりならば、伝えるべき知識はその外側へは広がっていかないだろう。動物園がその価値を最大限発揮するのは、それまで動物に興味のなかった人が大勢やってくるときだ。

 そのためには、動物に興味のない人にどうにかして足を運んでもらう手段が必要となる。けものフレンズは、その手段として非常に優れた効果を発揮してくれた。

 実際のところ、けものフレンズでなくとも、動物園に人を呼ぶ手段はある。今まさに上野動物園で進行中の、「客寄せパンダ」もそのひとつ。けれど、これはどんな動物園にもできることではない。パンダに限らず、ゾウやキリン、トラなど、人を呼べる動物は現在では入手も難しく(余っているのはライオンくらいではないだろうか)、維持費もバカにならない。

 けものフレンズは、そのような「人気動物のあり方」を逆転させた。それまでマイナーだった動物たちを「フレンズ」として活躍させることで「人気動物」へと変貌させ、マイナーな動物しかいない動物園に人を呼ぶことにも成功しているのだ。無名のネコ科であったサーバルとどこにでもいるペンギンであるフンボルトペンギンの2種によって(あえて悪い言い方をすれば)田舎の小さな動物園である羽村市動物園に来園者を動員してみせたのがよい例だ。珍しい動物の導入も大掛かりな施設改修もなしで、けものフレンズは動物園に人を呼ぶことができる。このポテンシャルは、大事に育てていけば、きっと大きな力になると私は思っている。

 付け加えれば、けものフレンズは、動物への興味を掻き立てるために動物を傷つけることの抑止にもなりうる。かつて某動物番組に出演していた子どものチンパンジーの扱いに、明らかに虐待的な要素があり炎上したことがあるが、人がつい動物に求めてしまう「かわいさ」や「物語」の受け皿としてフレンズが機能すれば、チンパンジーの子どもがわけもわからず町に放り出され「お使い」を強要されるようなこともなくなるだろう。フレンズで人が呼べるということになれば、虐待的なショーを行う施設のインセンティブを削ぐこともできるはずだ(たとえばイルカのショーについてはイルカたちのエンリッチメントとして機能している部分もあるが、チンパンジーのショーについては動物の特性上、くっきり虐待であると判明している)。

 このような理由から、動物と動物園について、興味がない人にも広く知ってもらうための窓口として、けものフレンズを応援していきたいと考えているわけである。

 だから、運営側の動きに首をかしげるようなものがあったとしても、プロジェクト自体が潰えてしまえ、とは思えない。このやり方が結果を残している以上、新しく別の道を探すよりはこれを進めたほうがよいだろうし、すでに「けものフレンズ」として結実したものについて、他の誰かが同じようなことをやり直したとしても、「二番煎じ」と取られ同じような効果を得ることはできないだろうからだ。何か問題が生じたのだとしても発展的に解消し、末長く続いていくよう、ファンという立場でしかないけれど、支えていきたいと思うのである。

 とりあえず、今は2期の続きが楽しみだ。

 

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (新潮文庫)

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (新潮文庫)

 

 

けものフレンズ Blu-ray BOX

けものフレンズ Blu-ray BOX