ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

かばんさんのこと。

けものフレンズ2」の第5話から第6話にかけて、前作で主人公を務めたかばんが登場しました。

たつき監督のプロジェクトからの離脱以降、彼の手によって生み出されたかばんがどのように扱われるのか、今後の作品に登場するのかどうかがファンの大きな関心ごとになっていましたが、今回の登場によって、けものフレンズプロジェクトにおけるかばんの立ち位置には一応の決着がつけられたことになります。

今日は、かばんの登場についての私の感想を書きます。

かばんの登場に対する反応は、人によって様々です。登場すること自体が受け入れがたいという人も、描かれ方に納得がいかないという人もいます。逆に、登場を嬉しく思う人もいます。経緯が経緯だけに反応が分かれてしまうのは自然なことでしょうし、どちらかが正しい、ということもないでしょう。私はかばんの登場を素直に嬉しく思っていますし、時を経て成長し、変化したかばんを好もしく感じてもいますが、それは人に押し付けられるものではありません。だから、これから書くのは独り言のようなものです。そのつもりで、時間と心の余裕のある人だけ、読んでいただければ幸いです。

私がかばんの登場を嬉しく思うのは、第一に、「けものフレンズ」の作品世界において、彼女が極めて重要な存在であると考えているからです。なにしろ彼女は、ミライという主要人物の髪の毛から生まれた「ヒトのフレンズ」という、現時点で類を見ない生い立ちを持っている。今の彼女がフレンズ化の解けたヒトなのか、ヒトのフレンズのままなのかは判然としない部分がありますが、それでも、サンドスターによって生まれた「ヒト」という特異な存在であることに変わりはありません。サンドスターによって動物が「ヒト化」する現象が根幹にある作品世界において、それをもう一捻りした「ヒトのフレンズ」は間違いなく、存在自体が重要なはずです。その誕生をなかったことにして、彼女の存在しない世界線でだけ物語を進めることは、作品世界の大きな後退につながりかねません。

第二に、というか実際にはこちらの方が大きいのですが、単純に私が、「臆病だけど優しくて、困ってる子のためにいつもいろんなこと考えて、頑張り屋」な彼女のことを気に入っているからです。「かばんちゃんのいないけものフレンズなんて寂しすぎる」と思っていたし、彼女をのけものにして欲しくない、と思っていました。

かばんの存在をいわば聖域として触れずに扱っても、1クールのアニメとしては完結させることができたでしょう。そのほうが炎上の規模も小さくすんだのではないかと思います。傷つく人も少なくてすんだ。でも、みんながそれにならって「かばんちゃんはたつき監督のものだから」と扱うことを避けていたら、彼女はあんな小さな船で海に放り出されたまま、どこにも行けなくなってしまいます。それだけでなく、「このまま進むとかばんちゃんを扱わざるをえなくなってしまうから方向を転換しよう」「かばんちゃんに触れない形で作品を作ろう」という判断が一般化してしまったら、かばんのいる場所は常に遠回りして通らなければならない、ということになってしまったら、彼女はむしろ、作品の発展を妨げる地縛霊みたいなものになってしまいかねません。大好きなかばんちゃんがそのような存在になってしまうことを、私は何より恐れていました。

だから、どんな形であれ、まずは彼女が作品世界の中にきちんと存在し続けていると示されたこと、制作陣の方々が、タブーになってしまいそうな空気に抗ってくれたことが、私は嬉しかったのです。今後作品に登場しなくなったとしても、彼女はパークのどこかで自分の生をまっとうしているし、必要であれば、あのサーバルがかばんに会いに行くこともできる。今回の登場によって、そのことは確かに保証されました。もう私たちは、「かばんちゃんは元気にしているのだろうか」と思い悩む必要はありません。サーバルとの別れは辛いけれど、かばんが永遠に宙ぶらりんにされてしまうよりは100倍良かったと、私は受けて止めています。

幸いにして、現在の制作陣が描いてくれた成長したかばん(かばんさん、と呼んでいますが)の姿は、私にとっては自然に感じられました。「けものフレンズ」は優しい世界と評されますが、優しいのはサーバルを筆頭にしたフレンズたちであって、世界そのものはそれほど優しくはありません(むしろ厳しい?)。そのなかで、「ヒトのフレンズ」という微妙な存在のかばんがいろいろなことを経験していったら、あんな感じになるんじゃないかな、と私は思います。だから私にとっては、受け入れがたいものではありませんでした。むしろ、今の制作陣の方々が真摯に取り組んでくれたのだと感じることができました。

それでも、自分たちが見たかったのは「たつき監督の描くかばんちゃんなのだ」と考える方の気持ちももっともだと思います。たつき監督の描くかばんの後日譚を見てみたかったという気持ちは私にもあります。けれど、冷静に考えれば、その実現に期待をかけられるような状況ではない。そのなかで、「現状では、自分たちがやるしかない」と炎上覚悟で決断し、取り組んでくれた現制作陣の方々に、私は素直に感謝しています。

第6話で「けものフレンズ2」は、プロジェクトが抱えた宿題に解答を出すという大きな仕事を果たしてくれました。ここから先は、広がりつつある新しい世界の、その先を楽しみに観ていきたいと思っています。