ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

本物を見ることの強み。

 

先日、水族館に行った時のこと。

瞬膜が出て半目になったペンギンの写真を撮りたくて(自分でもちょっと何言ってるのかわからない)水槽の前でシャッターを切り続けていた私(結局失敗した)の近くに、50代くらいの女性2人組がやってきた。

「あれがイワトビペンギン? 可愛いわねぇ」などとひとしきり話した後で、片方の女性が、「ねぇ、ペンギンの体って、あれ羽なの?鱗なの?」という疑問を口にした。

近くにいるほかの来園者の会話につい聞き耳を立ててしまうのが私の気持ち悪い習性なのだが、この時もその習性を発揮していた私は、その疑問を聞いて、思わずニヤリ、としてしまった(本当に気持ち悪い)。

というのは、女性が疑問に思ったように、ペンギンの羽毛は、鱗のようにも見えるからだ。

ペンギンの羽毛は、冷気や水を遮断するために特殊な構造をしている。一般的な鳥類の羽毛に、比べて硬く短く、生え方も密だ。ペンギンを扱うガイドツアーのある水族館や動物園ならば、たいていガイドさんがペンギンの体を逆撫でして見せてくれると思うのだけれど、セキセイインコやジュウシマツと比べるとかなり緻密である。さらに、羽毛にはフックのような構造がついていて、隣同士の羽毛が引っかかりあい、タイルのようにピチッとくっついた状態になる。これによって、水や冷気が直接皮膚に触れるのを妨げている(毛づくろいによって水を弾くための皮脂を塗りつけているのはもちろんである)。

そのような羽毛は、とくに水に入ったとき、まるである種のヘビやトカゲの鱗のような見た目になるのだ。

 

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ペンギンの体。羽毛が蛇の鱗のようにも見える。

逆にいえば、「鱗のような羽毛」は海を飛ぶペンギンの特殊性の具体的な表れであるわけで、知っている身としては、「よくぞそこに注目してくれました」と嬉しい気持ちになったのである。私自身、同じように「鱗みたい」と思ったことが、ペンギンの羽毛について調べようと思うきっかけになったので、なんだか同志を見つけたような嬉しさもあった。なんなら手を握りたいくらいのものであった。

とまあ、気持ち悪い興奮はさておき、動物園や水族館のいいところは、「こういうところ」にあるのだろうと私は考えている。

2人の女性は、それからああだこうだと議論した後、「ペンギンは鳥だからあれは羽」という結論に落着していた。自分たち自身で考えた分、少なくとも「ペンギンの羽毛はちょっと変わってる」ということは、深く印象付けられたのではないかと思う。

予備知識のないまままず「実物」が現れて、いろんな「変」が目に入る。変だから調べるし、考える。そうして得られた知識は、ただ「解説」として教えらえた知識よりも強固に定着することが多い。HTMLタグなんてそれだけ見せられても暗記は不可能だが、自分でウェブサイトを作りながら参照していると自然と頭に入っている。それと同じようなものだ。

動物園や水族館は、教科書的な解説とは切り離して動物自体を見せることができるから、このような体験を提供しやすい。それは、学習施設としてのひとつの強みであるだろう。

動物についての知識を提供する、というだけであれば、動物園や水族館がなくても多分大丈夫なのだと思う。というか、図鑑や動画の方が効率はいいかもしれない。けれど、その「強度」まで考慮すれば、「本物を見せる」ことの必然性はあるのではないかな、と思うのである。