ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

もっとも詳細なペンギン図鑑。デイビッド・サロモン『ペンギン・ペディア』

本屋さんに行くと、さまざまなペンギン関連書籍を見つけることができます。写真が美しかったり、最新の分類基準にしたがっていたりとそれぞれに魅力がありますが、その中でペンギン1種あたりの「情報量」のナンバーワンを挙げるとしたら、デイビッド・サロモン著『ペンギン・ペディア』(河出書房新社)になるでしょう。

『ペンギン・ペディア』では、17種のペンギン(本書ではミナミイワトビペンギンキタイワトビペンギンを亜種関係としているのでこの種数になる)それぞれについて、分布や個体数、体長、産卵数、生活史といった基本的な情報に加え、制作時までに判明していた研究結果や、著者が実際に繁殖地で観察した際の詳細なレポートまで掲載されています。A4より大きい本で、1種に割かれるページ数は16ページ前後。半分ほどが写真とはいえ、かなりの情報量です。大抵の図鑑類ではせいぜい1種につき2〜4ページというところですから、それらと比べれば相当に充実しているといえます。体重については雌雄、年齢、時期ごとのデータも掲載されており、嘴やフリッパーの長さなど、ほかの本ではなかなか知ることのできないデータまで、複数の文献に基づいてまとめられています。最高潜水深度や最高速度など、話のタネにもしやすいデータも種ごとにまとめられていて、ペンギン好きにはたまりません。コウテイペンギンがいちばん深く潜れるのはわかった。じゃあ、ほかのペンギンはどのくらい潜れるの?と思ったときに、(記録がある限り)全種について情報が出てくるのですから、「百科事典」は伊達ではありません。

個々のペンギンの学術的な情報だけでなく、巻頭には野生のペンギンを見に行くことができるツアーのリストが、巻末には世界の動物園・水族館のペンギン飼育リストが掲載されており、まさに至れり尽くせり。下調べにはものすごく便利です。それでいて、価格が3800円というのですから、コストパフォーマンスは抜群です。

ただ、原著の刊行が2011年であるため、少し内容が古くなっている部分は見受けられます。ツアー内容や動物園・水族館の飼育動物などはもちろん、分類や系統樹など学術的な事柄についても、本書の刊行後に決着がついた、修正された内容もいくらかあるため、それらは最新の文献で補っていかなくてはいけません。それでも、生活史など基本的な情報についてこれほど充実した内容で書かれている本はほかにないので、まだまだ、現役として活躍できる本と言えるでしょう。

もし、ペンギンについて勉強したいという人にはじめの1冊を勧めるとしたら、私は本書を選びます。ハードカバーでしっかり製本されていて、写真も、ビジュアル全振りの写真集などには及ばないものの鮮明なものが多いので、部屋に置いて、あるいは眺めているだけでも楽しく、買う価値のある本だと思います。

ペンギンに興味を持ったけど、どんな本を買えばいいかわからないという方がいたら、ぜひぜひ、本書に手を伸ばしてみてください。

 

ペンギン・ペディア

ペンギン・ペディア