ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

動物の心に迫る本。日本動物心理学会監修『動物たちは何を考えている?』

私は今、2匹の猫と暮らしている。

猫たちを眺めていると、ときに物思いにふけるような顔で外を見ていたり、見慣れないおもちゃを前にどうしたものかと思案しているような様子を見せたりと、内面の動きを感じさせる様子が見られることがある。高いところによじ登ったはいいものの降りれなくなってしまって困り顔をしていたり、「脳みそついてるのかな?」と疑うようなこともしばしばある。この子たちは日々、何を感じ、考えて生きているのだろう(あるいは何も考えていないのか)と、いつも思う。いったい、動物たちの心の中は、どんな風になっているのか。それは、動物に関わる者が多かれ少なかれ持っている疑問だろう。

それを追求するのが、動物心理学という学問だ。この分野の研究者たちは、いろいろな工夫を凝らして、物言わぬ動物たちの心を読み取ろうと、日夜研究を続けている。

日本動物心理学会監修の『動物たちは何を考えている?』(技術評論社)は、そんな動物心理学のさまざまな研究成果を、コンパクトにまとめた本である。

第1章では、動物心理学という学問が何を目指しているのかについて、詳細に語られる。簡潔に言えば、この学問は、動物の心のありようを知ることによって、心がどのように進化してきたのか解き明かすことを目指している。それはひいては、私たちヒトの心を解き明かすことにもつながる。それが、究極の目的となる。

第2章では、動物の心を知るための手法について語られる。前述のように動物は言葉を発しない。だから、考えていること、感じていることを説明してもらうことはできない。では、どうすれば、彼らの心を知る(正確に言えば推測する)ことができるのか。研究者たちが編み出してきた観察の「コツ」が解説される。

第3章以降では、1、2章を踏まえたうえで、知覚や学習、思考、社会性など、さまざまな観点からの研究成果を、具体的に説明していく。「叱る」しつけはどれほど有効なのか、動物は音楽や絵を理解するのか、ヒトの言葉は覚えられるのか、文化を持つのか、「自分」や多個体をどのように認識しているのか。そういったいろいろな疑問について、制作時点での最新の研究成果に基づいて解説される。登場する動物は、チンパンジー、ハト、ラット、カラス、アライグマなど多岐にわたり、それらの違いについても教えてくれる。

これらの内容を読んで痛感するのは、「心のありようは一通りではない」ということだ。

私たちはつい、ヒトという動物の心のありようを基準に考え、ほかの動物にもそれを当てはめがちだ。また、ヒトがもっとも「発達した」心を持っていて、ほかの動物はそれより劣っている、と判断しがちでもある。けれど、本書を読むと、ヒトの心のありようも、動物が持ちうるさまざまなバリエーションのひとつでしかないことがわかってくる。たとえば鳥類は、空を飛ばなければならないという制約から、哺乳類のように脳を大型化することができない。だから、哺乳類とはまったく異なる方法で認知機能を発達させてきた。哺乳類は脳にしわをたくさん作り、表面積をどんどん大きくすることで神経細胞の数を増やし、認知機能を向上させてきた。だから俗に、しわが多いほど賢いなどと言われるが、鳥の脳はつるんとしている。では知能が劣るのかと言えばそんなことはない。ヨウムカレドニアガラスが類人猿顔負けの知性を持ち合わせていることは、今では多くの人に知られているだろう。鳥類は、哺乳類の大脳新皮質(いわゆる脳のシワのあるところ)で行われている演算をまったく別の部位で処理していることがわかっている。そこまで違うとすれば、もはや優劣を論じること自体が無意味かもしれない。また、高速で空を飛ぶ、という生活に対応するためか、鳥類の脳はヒトの脳とは違った仕方で世界を捉えている。たとえば本書によれば、エビングハウス錯視ツェルナー錯視では、ハトはヒトと真逆の「錯覚」をするという。とすれば、ヒトの心を単純に鳥類に外挿することもナンセンスといえる。

もっとヒトに近いチンパンジーでも、たとえば数の認識の仕方がヒトとは異なることを示唆する研究が紹介されている。ページをめくるごとに、動物の心の世界は想像以上に奥が深いことを思い知るだろう。

紹介されている研究は限られたものであるし、そもそも動物の心のありようは未だ「ほとんどわかっていない」と言ったほうがいい状態ではある。それでも、本書の内容は、多くの気づきをもたらしてくれる。

うちの子はひょっとしてバカなんじゃないだろうか……と疑ってしまったときに(よく疑う)読んでみると、ちょっと穏やかな気持ちになれるかもしれない。

動物たちは何を考えている? -動物心理学の挑戦- (知りたい! サイエンス)

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