ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

独断と偏見のペンギン図鑑3:アデリーペンギン

基本データ

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和名:アデリーペンギン

英名:Adelie penguin

学名:Pygoscelis adeliae

体長:70〜73cm

分布:南極周辺、南極大陸沿岸と、ロス海のロイズ岬から北へプーペ島までの大陸周辺の島々

生息状況:準絶滅危惧種。237万つがいほど。

特徴1:ザ・ペンギン

アデリーペンギンは、「ペンギンのイデア」のようなペンギンである。試しに、ペンギンのそれほど詳しくない家族や知人に、ペンギンの絵を描くように頼んでみてほしい。十中八九、お腹が白、背中が黒の、アデリーペンギンのようなペンギンを描くはずだ(残りの一、二はコウテイペンギンのヒナのようなペンギンを描く)。同様に、何ペンギンが明示されていない漠然とした「ペンギン」のキャラクターはおおむねアデリーペンギンの姿をしている。JR東日本ICカードSuicaのマスコットキャラクターもアデリーペンギンなら、クールミントガムのパッケージに描かれているのもアデリーペンギンだし、『ペンギン・ハイウェイ』で暴れまわるのもアデリーペンギンだ。ペンギンと聞けば、少なくとも日本人ならばほとんどの人がまずこの姿を思い浮かべる。 南極にしか生息していない、人類とはもっとも縁遠い生物のひとつでありながら、人間と隣り合わせで生活しているケープペンギンやコガタペンギンを差し置いて、ペンギンらしさの象徴となっている。それがアデリーペンギンである。

これは一般的に、「ペンギン=南極」のイメージが持たれていることと不可分ではないように思う。

ホシザキ株式会社のペンギンライブラリーにはこのような記述がある。

1910~12年に南極探検を行った白瀬隊日本で初めて南極探検に挑み、ロス海到達後、犬ぞりで南緯80度5分・西経156度37分の地点まで辿り着いたは、わずか204トンの帆船で南極ロス海到達という快挙を果たし、国民的英雄として日本に戻った。彼らが持ち帰ったアデリーペンギンの写真や映像、そして剥製(はくせい)が、南極探検の快挙とともに伝えられ、ペンギンの存在が国民に広く知られることとなった。

また、作家の川端裕人さんは、『ペンギン、日本人と出会う』(文藝春秋)の中で、こんなことを書いている。

戦後、南氷洋捕鯨捕鯨オリンピック)や南極観測(科学者たちへのオリンピック)への参加が、国威発揚の一環として熱狂的に支持されていた時代があった。この時、南極の生き物の代表格と考えられていたペンギンは、見知らぬ世界への夢を担う立場に立たされた。

国を挙げて南極に情熱を傾けるなかで、捕鯨船や観測隊によって持ち帰られる「ペンギン」のイメージ(ときにはホンモノ)が、私たちの集合意識に、「ペンギン=アデリーペンギン」の図式を作り上げていった。そう考えれば、決して動物園・水族館での飼育数も多くないアデリーがペンギンの象徴となったことにも納得できる。同じく南極に暮らすコウテイペンギンでなかったのは、南極進出では出遅れた日本がなんとか確保できた昭和基地周辺に、コウテイペンギンのコロニーがなかったためだろう。イデアとしてのアデリーペンギンは、日本人が南極に向ける、夢と妥協の産物なのかもしれない。

特徴2:世界でいちばん元気なペンギン

ペンギンと聞いてアデリーペンギンを連想してしまうのは、日本に限ったことでもないようだ。世界一有名なペンギンであろうピングーも、コウテイペンギンという設定でありながら見た目はほとんどアデリーペンギンである。

見た目どころか、キャラ設定自体がアデリーペンギン的と言える。ピングーのキャッチコピーは「世界でいちばん元気なペンギン」だが、これはアデリーペンギンにこそふさわしい形容だろう。

アデリーペンギンのコロニーは非常に騒がしいという。とくに巣作りの時期などは、至るところで喧嘩が起こる(多くの喧嘩は、2羽以上のペンギンが巣材に用いる小石を奪い合うことで起こる)。浮気現場が見つかったときの修羅場もすごい。『新しい、美しいペンギン図鑑』(X-Knowledge)にはこんな記述が出てくる。

オスが他のメスと一緒になろうとしているのを前年のパートナーだったメスが見つけると、当然、大喧嘩となる。噛んだり蹴ったり、骨張った翼で素早く叩きまくったり、攻撃手段を選ばない取っ組み合いだ。(中略)喧嘩があまりに激しいので、撮れた写真はほとんどぶれているのだが、後で見てみたら(中略)、カンフーのような跳び蹴りで相手を倒しているシーンまであった。

そのほか、縄張りに入ってきたほかの個体は雛であっても容赦なくどつきまわすし、卵や雛を襲う天敵であるオオトウゾクカモメ相手にも果敢に立ち向かっていく。自分よりずっと体の大きな(そして無害な)コウテイペンギンの雛であっても、邪魔だと思えば追い立てる。なんともアグレッシブなのである。

まさしく、「世界でいちばん元気なペンギン」。いや、これを「元気」と言っていいのか定かではないけれど。


Penguin chicks rescued by unlikely hero | Spy in the Snow - BBC


Adelie Penguin Slaps Giant Emperor Chick!

特徴3:情熱的な名前

アデリーペンギンの「アデリー」は、はじめて発見された場所である南極の「アデリーランド」に由来している。この土地の名前は、フランス人探検家ジュール・デュモン・デュルヴィルが自分の妻の名前、アデルにちなんで命名したものだ。アレクサンダー・フォン・フンボルトやフィリップ・ラトリー・スクレーターなど男性の研究者・探検家の名前に由来するペンギンはほかにもいるが、女性名、しかも「妻」というパターンはペンギン全18種中アデリーペンギンだけである。

自分の探検した土地に、自分の妻の名前をつける。さすがフランス人、なんというロマンチスト、なんという愛の重さ。日本人だったら、ちょっとひく。それに、この後離婚なんてしてしまっていたら、腫れ物じみた雰囲気が土地周辺に漂うことになる。大丈夫だったかジュール。あと、アデルの性格がちょっと気になる。言霊というものを信じるわけではないが、アデリーペンギンみたいな性格だったら大変だ。大丈夫だったかジュール。だから探検に出ちゃったのかジュール。

特徴4:やっぱりかわいい

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白いアイリングが表情を愛らしくする

性格がいささか攻撃的に過ぎるきらいはあるものの、そのシンプルなカラーリングも相まってアデリーペンギンはやっぱりかわいい。好奇心旺盛な性格からもたらされる南極観測隊や研究者の語るエピソードや、水族館の展示での賑やかな様子にはほっこりさせられる。せわしなく動き回って来園者の笑いをとっているのも、たいていはこのペンギンである。ペンギンの代表格として人々の意識に焼き付いているのも、無理からぬことのように思われる。

まとめ

私がアデリーペンギンに対して抱いている印象をまとめると、「引き出しの多いエンターテイナー」というところである。上で紹介した動画でも、コウテイペンギンの雛を襲っていたオオトウゾクカモメを追い払って雛を守ったと思ったら、今度はコウテイペンギンの雛を追い立てはじめて「お前なんなんだよ」と突っ込まずにはいられないし、探せば探すほどネタが出てくる。猫と同じように、活発で好奇心旺盛な分だけ突っ込みどころも多い。気がつくと、「見るだけで笑ってしまう」ように順化さえされてしまう。非常におもろいペンギンであると思う。

名古屋港水族館など、大きな群れで飼育されている施設に行くと、その「おもろさ」が楽しめると思う。ぜひぜひ会いに行ってみてほしい。

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アデリーペンギンの見られる動物園・水族館

アドベンチャーワールド八景島シーパラダイス名古屋港水族館海遊館

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