ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

加速装置としてのけものフレンズ

ここのところ、Twitterのタイムラインを眺めているのが楽しい。

アニメ『けものフレンズ2』放送中である今は、最新話が放送されるたびに、登場する動物に関するツイートがタイムラインに溢れるからである。

フレンズの設定の下敷きになったであろう習性やエピソードを紹介してくれる人、愛が深すぎてひたすらココ好きポイントを連投する人。普段、その動物について語りたくてしかたがない人が、アニメをきっかけにその情熱をほとばしらせている感じがとても素敵だし、知らなかったことをたくさん教わることができるのでためにもなる。だから、最新話放送後数日のタイムラインからはついつい目を離せなくなる(第5話の後とかやばかったですね)。

けれど、よく考えてみればこれは不思議なことだ。タイムラインに流れてくる情報を私が知らなかったということは、私はもともとその動物に興味がなかったということだからだ。興味がないから、これまでその動物について調べることもなかったし、どこかで聞いたかもしれない話も忘れてしまっているわけで、それならば今、目の前に流れてきたツイートも、同じように流してしまってもおかしくないはずなのだ。その動物について暑っ苦しく語る人のことを、鬱陶しいと思ってもおかしくないはずなのだ。それなのに、私はそれらのツイートを面白いと思い、リツイートしたり、いいねをつけたりしている。いったいどういうわけなのだろう?

答えは簡単で、「アニメを視聴した」そのこと自体によって、動物に対する興味・関心の程度が変化させられているからだ。

フレンズたちは、かわいらしい女の子の出で立ちをして、人間に近い心を持っている。そのため、元動物への興味関心とは無関係に、キャラクターとしてそのフレンズを好きになる、ということがある(私の場合、いちばん好きな「ペンギン」はジェンツーペンギンだが、いちばん好きな「ペンギンのフレンズ」はロイヤルペンギンのプリンセスである)。一方で、多くの場合、彼女らは「動物の名前」で呼ばれ、また元動物の特徴を外見や行動に多く引き継いでおり、元動物とは不可分の存在とされる。と、フレンズに対して芽吹いた好感に媒介されて、もともと興味のなかった元動物に対する関心が、無意識のうちに高まるのである。もし、積極的には元動物について調べようと思わなかったとしても、「フレンズ」を好きになることを通じて、流れてきた元動物に関する情報が、より「ひっかかる」ような精神状態に、いつの間にか変わっている。だから、それまで流してしまっていたはずの情報を面白がれるようになるのだ。

けものフレンズ』の効果のキモはこの辺にあるのだろうな、と思っている。

いわゆる動物好きであったとしても、人によって、興味のあり方にはばらつきがある。なにしろ、(けものフレンズの対象種で言えば)哺乳類だけでもおよそ6000種、鳥類と爬虫類がそれぞれおよそ10000種いるわけで、その全部に平等に関心を持つ、というのもなかなか難しい(少なくとも私には難しい)。動物たちは多様性に富んだ形態・生態をしているが、それは言い換えれば、ある動物が「ストライクゾーン」である人にとって、別の動物が「ボール」になる可能性はそれなりに高い、ということでもある。だから、同じ「動物好き」同士でも、そのままでは会話が盛り上がらない、ということもある(敬意を持ってお互いの話を楽しむ、ということはもちろんできるが、力点がずれているので、なんとなく不完全燃焼に終わる、ということもあるのだ。下戸猩々さんがリカオンのハンティングの美しさについて力説するのを聞きながら、白輪剛史さんはメガネカイマンの話をしたいと思っているかもしれない)。また、興味関心に基づいて編集されるSNS上ではつながりにくい、ということもある。すると、情報のやりとりが先細りになってしまったりする。

しかし、『けものフレンズ』は、前述のような仕組みでその壁に穴を開ける。フレンズを触媒にすることで、「もともとその動物について迸る熱いパトスを持っていた人」と、「そうでもなかった人」のエネルギー差を解消し、近い熱量で共にその動物を見つめることができるようにしてくれる。と、高感度な聞き手を得ることで、「その動物について迸る熱いパトスを持っていた人」は、その動物について、より饒舌に語り出すことになる。何かを好きな人は、その好きなものについて、きっかけを見つけては語りたがるものだが、良質な聞き手の存在はその勢いを加速させる。結果として、「自分から汗をかいて探しに行かなければいけなかった情報が、湧き水のようにタイムラインに湧いてくる」という得難い状況が出現し、私たちは、「興味を喚起させられてしまった」動物について多くのことを学び、楽しむことができる。

けものフレンズ』には、このようにして、動物に関する情報の流通を加速・増大させるはたらきがあると思うのである。それが、このコンテンツのいいところのひとつだと感じている。

そのような効果を絶やさないように、また、もっとたくさんの動物好き(できることなら専門家を)を巻き込めるように、発展していってほしいなあ、と思う。