ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

博物館へ行こう。

私はずっと、首都圏で暮らしてきた。

首都圏には、大きな動物園や水族館がたくさんある。世界三大珍獣オカピジャイアントパンダコビトカバ)がすべて揃っている上野動物園や、リカオンオセロット、キノボリカンガルーなどほかでは見られない動物を多く展示しているズーラシア、日本で唯一、クロマグロの回遊水槽を備えている葛西臨海水族園、日本では2つの施設でしか飼育されていないシャチのいる鴨川シーワールドなど、なかなかお目にかかれない動物を見ることのできる施設も多い。ペンギンにしても、コウテイペンギンとヒゲペンギンを除けば、日本で飼育されている種ならばどこかしらで見ることができる。動物を見たいと思ったときに、不自由を感じることはあまりない(箱根園水族館にマカロニペンギンを見に行くのはいささか骨が折れるが)。

そのような環境にいると、「わざわざ剥製を見て何になる」という気持ちを少なからず抱いてしまう。すぐそこで本物が眠りこけているのに、やや高い入館料を払って剥製のパンダを見るのか?  だから私は、動物の展示を見るために博物館に行ったことがあまりない。科学博物館、あるいは自然史博物館は恐竜の化石を見に行くところ、という印象をずっと持っていた。

けれども、動物を「見る」というだけでなく、動物について「知る」のであれば、動物園で生きた動物を見るだけでなく、博物館の展示を見ることもやっぱり大事だな、と近頃は思っている。

動物園の役割は、「生きた動物だからこそ伝えられる、動物本来の姿」を見せることだ。たとえば本来群れで生活するゾウなら、数頭を飼育し、大きなスペースを与えて群れで展示することが望ましい。集団で密集して営巣するペンギンならば、やはり広い場所で、小競り合いが起こるような数で飼育することが望ましい。一種あたりにかけるリソースを最大限にすることで、動物園の展示効果は最大になる。

けれども、ジャパリパークのようにリソースの有り余る場所でない限り、「一種にかけるリソースを増やす」ことは、「展示種数を絞る」ことと裏表の関係になる。ゾウ5頭分の飼育スペースが用意できる施設があるとして、そこで「アジアゾウ2頭、アフリカゾウ3頭」のような飼い方をするのは好ましくない。どちらかの種に絞って、5頭の群れで飼うべきである。「生きた動物」を最大限活かすためには、「網羅性」をある程度犠牲にする必要があるのだ。

また、かりにアジアゾウアフリカゾウ両方を群れ飼育できるだけの施設があったとしても、それぞれの展示スペースが広大になるため、双方を並べて比較する、というようなことは難しい。まずアジアゾウを観察して、「アフリカゾウだとどうなってるんだ?」と思ったら、えっこらえっこらアフリカゾウの展示まで歩いていかなければいけない。これはなかなか骨が折れる。何度も往復するとなったら心も折れる。

それに、「生態を見せる」ということであれば、いくら似ていて、比べると面白いからといって、北極海ウミガラス南極海のペンギンを一緒に展示するわけにはいかない。ペンギン同士なら許容範囲と思われても、フンボルトペンギンコウテイペンギンは、生理学的に一緒に飼えない。

つまり、動物園は、「ひとつの種を隅から隅まで観察できる」極めて優れた施設である一方で、動物同士を比べてみるとか、関係を知るといった面では少なからず制約がかかってしまうのである。

博物館の展示は、その穴を埋めてくれる。

展示されるのは剥製などの標本だから、その標本が安全に置けるだけのスペースがあればいい。群れを作る必要もない。標本のタイプが同じならば原産地がどこであろうと保存方法は同じだから、異なる環境に住んでいる動物同士でも並べて置ける。だから、博物館では、「生きてはいないけれど紛れもない本物(本物を完コピしたレプリカのこともあるけど)」を使って、系統関係や種間関係を1枚の絵のように見ることができる。

たとえば、国立科学博物館地球館1階の「系統広場」では、床に描かれた系統樹の先に本物の剥製を配置し、生物の系統関係を一望することができるようになっている。ペンギン代表としてキタイワトビペンギンの剥製が展示されていて、どんな動物と系統が近く、どんな動物とは遠いのか、がわかるようになっている。

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系統広場のキタイワトビペンギン

同じく地球館3階「大地を駆ける生命」の「多様な鳥の形」では、さまざまな種類の鳥の剥製をずらっと並べ、食性や生活環境による形態の類似点、相違点を比較できるようになっている。ペンギンの仲間ではフンボルトペンギンの剥製が展示されていて、ほかの水鳥とどこが同じでどこが違うのかを比べることができる。

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「大地を駆ける生命」のフンボルトペンギン

動物園では確かめにくいことを、より手軽に調べることができるのである。

また、動物園ではどうしても大掛かりになってしまう「景観」を見せるような展示も作りやすく、1フロアでコンパクトに「世界」をまとめることもできる(ズーラシアは東京ドーム10個分もあるのに!)。情報の一覧性の高さでは、動物園を圧倒している。

ある動物について解説するときにも、動物園の飼育員さんと博物館の学芸員さんとでは切り口が違うので、博物館ならではの発見は多い。

だから、動物について知りたければ、動物園と博物館、両方行ったほうが面白いな、と思うのである。

みなさんもよろしければ、近くの博物館へ足を運んでみてください。

www.kahaku.go.jp

国立科学博物館のひみつ

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大人も楽しい 博物館に行こう

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