ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

スナネコを見てきました。

2019年5月、「インナー・シティ・ズー ノア」(以下ノア)という名前のペットショップが、スナネコを輸入したと発表しました。

noahzoo.blog.fc2.com

スナネコはアラビア半島から北アフリカの中東地域の砂漠地帯に生息する小型のネコ科動物です。イエネコよりもひとまわり小さいサイズと可愛らしい顔つきから「砂漠の天使」との異名を持ちます。海外には飼育展示している動物園がいくつかありますが、日本ではペットとしてはもちろん、動物園でも飼育されておらず、国内でお目にかかることはできない動物でした。そんなスナネコが日本にやってきたというのですから驚きです。

bigcatrescue.org

輸入されたスナネコたちは3ヶ月の馴致期間を経て、2019年8月22日よりノア店内で公開されることとなりました。5月以降このスナネコたちに関心を寄せていた私は、さっそくノアへお邪魔することとしました。

インナー・シティ・ズー ノアとは

本題に入る前に、まず、ノアがどんなところかを説明しておきたいと思います。ペットショップと言ったものの、ノアは一般的に想像されるペットショップとは少し違います。取り扱う動物はイヌやネコ、ウサギやモルモットといった一般的な伴侶動物にとどまらず、サーバルカピバラシロフクロウ、アルダブラゾウガメなど、非常に多岐にわたります。公式サイトでは国内繁殖・輸入が可能な動物はすべて揃うと謳われており、おびただしい数、種類の動物が、店内に所狭しと陳列されています。

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ケープペンギンのペア

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フェネック

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アカハナグマ

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ビントロング。奥にはサーバルも見える。

動物の陳列エリアは有料となっており、観覧料を払って「見る」こと自体がサービスのひとつとなっています。また、動物とのふれあい体験や餌やり体験なども実施しており、「動物園」的な要素を強調した施設となっています。

経営母体である株式会社ケントッシュは動物プロダクション部門も持っており、飼育されている動物たちは、日本テレビの「天才!志村どうぶつ園」などのテレビ番組や、「Oh!祭りだよ!けものフレンズがーでん」などのイベントにも出演することがあります。ただ動物を小売するペットショップなのではなくて、輸入から様々な利用まで、複数の業態が複合した動物取扱施設というわけです。そのため独自の輸入ルートなども持ち合わせており、スナネコの輸入も可能になったのでしょう。

www.kentosh.co.jp

スナネコの輸入について

とはいえ、スナネコは日本では動物園でも飼育されていない動物です。輸入なんてできるの、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、輸入自体は不可能ではありません。

野生動植物の取引はCITES(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引における条約、いわゆるワシントン条約)とよばれる条約で規制されています。スナネコは、このCITESの付属書2類に記載(種単位ではなく、ネコ科動物がまとめて2類とされている)されている動物です。2類に記載されている動物は、輸出国の許可があれば輸出入が可能です(輸入国の許認可は不要で、輸出国の書類に不備がないかどうかのチェックのみとなります)。また、スナネコは家畜伝染病予防法狂犬病予防法、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律に基づく輸入規制、動物検疫の対象にはなっていません。したがって、CITESに基づく輸出国の許可があれば日本に連れてくることが可能ということになります。

もちろん、ペット用の繁殖個体が流通しているわけではないので手間がかかります。ノアのブログでも20年かかったとされていますし、その由来も野生個体であるようです。推定個体数密度は発見されているすべての場所で低く、本来的に希少な動物と考えられています*1。そのため、捕獲してよい頭数も限られているはずですから、簡単に輸入できる動物ではない、安易に飼える動物ではない、というのは確かでしょう。

ノアのスナネコの様子

では、最後にノア店内でのスナネコの様子を紹介したいと思います。

飼育ケージは下の写真のとおりです。

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スナネコの飼育ケージ

このなかに、雌雄2頭のスナネコが収容されています。スナネコのサイズからすれば、スペース的には狭すぎるものではなさそうです。右手奥には隠れられるスペースがあり、環境は配慮されています。

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スナネコ

写真では若干警戒している様子がみられますが、3ヶ月の馴致期間を経て毛艶など健康状態も悪くはなさそうです。国内初の飼育例ということで、とくに注意が払われていることが伺われます。観察していると、雄はほとんど奥の巣穴から出てきませんでしたが、雌はケージのなかをよく歩き回っていました。ねこじゃらしにじゃれつく様子も見られ、緊張はあるものの環境に馴染みつつあるものと思われます。ただ、人に向かって威嚇することもあり、野生動物なのだな、と感じられました。

この個体たちはまだ推定年齢1歳半の子どもですが、将来的には繁殖まで計画しているとのことでした。ほかでは見ることもできず、貴重な動物ですから、どうにか、健康に長生きさせ、繁殖にもこぎつけてくれれば、と思います。

*1:ルーク・ハンター著『野生ネコの教科書』