ペンギンの話

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ミライへの贈り物〜舞台けものフレンズ「JAPARI STAGE!」を見て思ったこと。

9月27日から10月6日にかけて、品川プリンスホテルのクラブeXで「舞台けものフレンズ「JAPARI STAGE!」~おおきなみみとちいさなきせき~」(以下「JAPARI STAGE」)の公演が行われた。=LOVEとのコラボレーションを除けば初となるアニメ版声優キャストのまったく出演しない「完全オリジナル」な舞台で、どんな仕上がりになるのだろうと、期待と不安の入り混じる気持ちで私は会場に足を運んだ。

蓋を開けてみれば過去作を凌駕するほどのよい作品で、運悪く当日アレルギー性鼻炎と結膜炎を発症していた私は、涙と鼻水でひどい顔をさらにぐしょぐしょにしながら観劇することになってしまった。感動すると同時に、「これはけものフレンズプロジェクト全体にとって重要な作品だ」と思ったのでそのことについて書く。

はじめに、「JAPARI STAGE」の内容をざっと説明しておく。

今作は、舞台版第1作と同様に、新たなフレンズが誕生するところから物語が始まる。能でいうところの「ワキ」にあたり物語を動かす役割を受け持つオオミミギツネと、「シテ」にあたり物語の核心に関わるシベリアンハスキーの2人である。オオミミギツネは、出会ったパークの先輩たちからパークに学校を作る計画があることを知らされ、その計画のために動き出す。シベリアンハスキーは、知らない場所であるはずなのに「知っている匂い」がすることの理由を探して、かつてこの場所に学校があったこと、自分がそこで飼われていたことを思い出す。

それぞれの物語が進んでいくなかで、ジャパリパークに非常事態が迫っていることが明らかになる。パークにエネルギーを供給している太陽光発電施設(通称「おひさまシステム」)が破損し、必要なエネルギーを生み出せなくなりつつあるというのだ。フレンズたちは危機を打開するため、今は使われていない風力発電施設を動かし、足りないエネルギーを補おうと奮闘する。

それと並行して、不思議な出来事が発生する。パーク内の洞窟に、フレンズたちのいる現在と、過去とをつなぐ穴が出現するのである。人1人が顔を覗かせられる程度のその穴の向こうには、かつてシベリアンハスキーを飼育していた学校の生徒たちの姿があった。この穴を通じて、フレンズたちと生徒たちは、それぞれが「今」直面している問題を互いに解決するために動き出す。フレンズたちは、すれ違ってしまっていた2人の生徒の仲を取り持ち、学校を離れなければならない彼女らに最高の思い出をプレゼントするために。生徒たちは、こちらも壊れてしまっていた風力発電施設の復旧を助けフレンズたちの危機を救うために。セルリアンの攻撃により時空をつなぐ穴は閉ざされ、両者はふたたび隔てられることになるのだけれど、それでも時空を越えたヒトとフレンズたちの協働により、問題は解決され、物語は大団円を迎える。修理のために過去へと手渡された風車の起動装置はセルリアンの妨害により直接受け取ることができなくなってしまったけれど、生徒たちが「埋めていた」タイムカプセルをハスキーが発見するという形で、きちんと送り届けられたのだ。

この物語のなかでもっとも印象的かつ中心となるのは、「時空を越えて現在と過去がつながる」という要素である。この要素を取り入れることで「JAPARI STAGE」は、王道ど真ん中の「けものストーリー」になったと私は思っている。

なぜか。

そこには、「今を生きる私たちは、未来を生きる者たちのために何ができるのか」という問いかけが含まれているからだ。

物語のなかで学校の生徒たちは、彼女たちからみれば未来を生きるフレンズたちの生存のために、立ちふさがる大人に抗い、奔走する。自分たちはもうすぐその土地から退去することが決まっていて、「もう関係がなくなる」場所であるにもかかわらず、そこに暮らす遠い未来の者たちの暮らしをよくするために尽力するのである。

これは、現実の世界で環境保全に携わる人々の行動原理と同質のものだ。

環境保全とは、基本的に未来のための取り組みである。ウナギを絶滅させてはならないのは、それが未来の人々のウナギを食べる権利を侵害するからである。今、ウナギを食べる権利を制限してでも、未来の人々が食べる権利を保障する。生態系サービスを今使い切ってしまわずに、未来を生きる人たちのために残しておく。それが環境保全活動を基礎付ける倫理的な土台となっている。

現代の動物園の「存在意義」もそこにある。なぜ種の保存をしなければならないか。なぜ環境教育を行わなければならないか。なぜ動物たちの研究をしなければならないか。すべては動物たちを未来へ残すためである。

「JAPARI STAGE」の生徒たちの振る舞いは、動物園の活動の根幹にある倫理を、見事に表現していたように私の目には映った。だからこの物語が、動物と動物園に関心を持ってもらうことを目的とした「けものフレンズプロジェクト」で描かれるべき王道のストーリーであり、プロジェクト全体にとってかけがえのない作品になると思ったのである。

未来がどうなるかなんてわからないのに、未来のことなんて考えてもしかたがない、という人はいる。それでも残しておけば、未来を生きる者たちによいことが起きる期待値は高くなる。だから、生徒たちがハスキーに見つけてもらえるかわからなくても信じて風車の起動装置をタイムカプセルに埋めたように、きっといい結果につながると信じて残す。それが環境保全の真髄である。

作品を観た人にはどうか、ミリちゃんやさっちゃんや、先生たちと同じような視線を持って欲しいな、と私は思っている。