イワトビペンギンは何種類?
葛西臨海水族園やマクセルアクアパーク品川、八景島シーパラダイス、箱根園水族館など、首都圏でも多くの施設で展示されているイワトビペンギン。その特徴的な外観や、テレビCMのキャラクターとして採用されたことなどから、ペンギンのなかでも知名度の高い種類ではないかと思われます。
イワトビペンギンとよばれるペンギンは、かつてはすべて単一の種であると考えられていました。しかし近年は、かつてから認められていた3つの亜種(キタイワトビペンギン、ミナミイワトビペンギン、ヒガシイワトビペンギン)のうち、キタイワトビペンギンをほかの2つとは独立した種とする考え方が主流となっています(キタ以外の2つをまとめて、「ミナミイワトビペンギン」としています)。
キタイワトビペンギンEudyptes moseleyiは南大西洋中部、南インド洋に、ミナミイワトビペンギンEudyptes chrysocomeは南緯46度から54度にかけての南洋全域に分布しており、形態に違いがあります。キタイワトビペンギンはミナミイワトビペンギンに比べひとまわり大きく、フリッパーや嘴も長めです。また冠羽がより鮮やかで、長くボリュームがあります。国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、キタイワトビペンギンは絶滅危惧IB類(EN)、ミナミイワトビペンギンは絶滅危惧II類(EN)に分類されており、いずれも個体数の急激な減少により絶滅が危惧されていますが、キタイワトビペンギンのほうがより危険な状態とされています。
また、DNAを用いた系統解析から、ミナミイワトビペンギンの2つの亜種(ミナミイワトビペンギン、ヒガシイワトビペンギン)を、それぞれ独立種とする考え方も支持されています。この場合、ミナミイワトビペンギンとされるのはフォークランド諸島やアルゼンチン・チリ南部の沖合の島々で繁殖するもの、ヒガシイワトビペンギンとされるのはアンティポデス諸島、オークランド諸島、キャンベル島、ケルゲレン島、クロゼ諸島、マリオン島、プリンスエドワード島で繁殖するものとなります。ヒガシイワトビペンギンEudyptes filholiはミナミイワトビペンギンに比べ嘴の周りの裸出部が広く、また嘴自体も、付け根から下嘴の中央付近にかけて縁取られようにピンク色になっています。
日本動物園水族館協会(JAZA)では、キタイワトビペンギンとミナミイワトビペンギンの2種に分ける考え方をとっており、データベース上ではそれぞれの種ごとに登録されています。亜種が分かる個体については亜種レベルで登録されますが、ヒガシイワトビペンギンの登録はありません。それぞれの種は、以下の施設で見ることができます。
キタイワトビペンギン
東山動植物園、アドベンチャーワールド、サンピアザ水族館、男鹿水族館GAO、マクセルアクアパーク品川、油壺マリンパーク、しまね海洋館
ミナミイワトビペンギン
旭山動物園、豊橋総合動植物公園、仙台うみの杜水族館、マリンピア日本海、鴨川シーワールド、葛西臨海水族園、八景島シーパラダイス、越前松島水族館、海遊館、しものせき水族館海響館、長崎ペンギン水族館
ところで、テレビCMに登場していたイワトビペンギンのキャラクター(ロッキー&ホッパー)は、それぞれ、キタとミナミの特徴を再現しているように思われます(時代……)。
記憶の片隅にある方は、ぜひ動物園で、見比べてみてください。
【参考文献】
- 作者: テュイ・ド・ロイ,マーク・ジョーンズ,ジュリー・コーンスウェイト,上田一生,裏地良子,熊丸三枝子,秋山絵里菜
- 出版社/メーカー: エクスナレッジ
- 発売日: 2014/11/29
- メディア: 単行本
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野毛山動物園
施設の概要
野毛山動物園は、鉄道各線の桜木町駅からほど近く、野毛山公園内にある動物園です。入園料が無料でありながら、インドゾウやスマトラトラ、チンパンジーなど豊富な動物を見ることができます。爬虫類館ではホウシャガメやハミルトンガメ、インドガビアルなど貴重な爬虫類が多く飼育されています。
繁殖技術にも定評があり、カラカルやウンピョウを日本で初めて繁殖させる(からカルは現在は飼育しておらず、ウンピョウはズーラシアへ移動している)、ホウシャガメやインドホシガメなどカメ類をコンスタントに繁殖させるなど成果をあげています。横浜にはほかにズーラシアや金沢動物園という大規模な市立動物園がありその陰に隠れがちですが、見どころのある施設です。
ペンギン
ペンギンの仲間は、フンボルトペンギンが飼育されています。
みなとみらい地区からもそれほど遠くない場所にあるので、横浜に出かけられた際は立ち寄られてみてはいかがでしょうか。
新江ノ島水族館
施設の概要
新江ノ島水族館は、小田急電鉄江ノ島線の片瀬江ノ島駅からすぐ、湘南海岸公園内にある水族館です。前身である江の島水族館がリニューアルし、2004年に開館しました。
目の前に広がる相模湾を再現した相模湾大水槽を中心に、海洋研究開発機構(JAMSTEC)協力による深海生物展示、ライトアップした水槽で種々のクラゲを展示するクラゲファンタジー、昭和天皇、今上天皇、秋篠宮文仁親王の研究をまとめた展示など、見どころは盛りだくさんです。飼育動物の繁殖技術も優れており、飼育展示下でのハンドウイルカの繁殖を日本で初めて成功させ、飼育下で4世まで誕生させるといった業績をあげています。
ペンギン
ペンギンの仲間は、フンボルトペンギンが飼育されています。
江の島へも歩いていける場所にあるので、鎌倉・江の島観光の際にはぜひ立ち寄ってみてください。
ジェンツーペンギンの亜種のこと。
ジェンツーペンギンPygoscelis papuaは、2つの亜種*1に分かれるとされている。南緯60度までの亜南極の島々(フォークランド諸島、サウス・ジョージア島、ケルゲレン島、ハード島、マッコーリー島、スタテン島)で繁殖するキタジェンツーペンギンPygoscelis papua papuaと、南極半島、サウス・シェットランド諸島、サウス・オークニー諸島、サウス・サンドウィッチ諸島で繁殖するミナミジェンツーペンギンPygoscelis papua ellsworthiの2亜種である。
両者は形態の違いから区別され、ミナミジェンツーペンギンはキタジェンツーペンギンに比べて小柄で、嘴も小さいとされている。また、遺伝子的な違いも調べられており、フォークランド諸島から南極半島へとつながる弧状列島(Scotia Arc)に分布する島々では、フォークランド諸島の個体(キタジェンツーペンギン)とそれ以外(ミナミジェンツーペンギン)とで違いがみられたそうである。
この亜種分けはIOC World Bird Listや現在刊行されている図鑑などにも記載されており、 日本動物園水族館協会(JAZA)でも、2亜種を区別している(亜種の記載がなく登録されている施設もある)。
JAZAのデータベースによれば、キタジェンツーペンギンを飼育しているのは旭山動物園、豊橋総合動植物公園、のいち動物公園、小樽水族館、登別マリンパークニクス、八景島シーパラダイス、ミナミジェンツーペンギンを飼育しているのは那須どうぶつ王国、アドベンチャーワールド、男鹿水族館GAO、南知多ビーチランド、海遊館、しまね海洋館である。
というわけで、2つの亜種はここが違う、ということを、写真付きで紹介できればと思ったのであるが、頭を抱えている。
八景島のジェンツーペンギン(キタジェンツーペンギンということになっている)の写真と、海遊館のジェンツーペンギン(ミナミジェンツーペンギンということになっている)の写真を並べてみても、違いがよくわからない……(亜種の違いを意識して撮ったわけではないからわかりにくいのかもしれない)。
さらに、調べてみたら、これとは異なる形で、ジェンツーペンギンが2つのグループに分かれていることを示唆する研究もみつかった。
The biogeography of Gentoo Penguins (Pygoscelis papua)
それによれば、大西洋側に分布するものとインド洋側に分布するものとのあいだに遺伝的な違いがあり、逆に、現在の形態に基づく亜種分けは、遺伝子的には支持されないという。
どうなっているんだ。
ジェンツーペンギンは私がいちばん好きなペンギンであるが、まだまだ知らないことがたくさんある。
精進せねばならない。
*1:種として独立させるほど大きくはないが、変種とするには相違点の多い生物の一群のこと
美しいペンギンの姿に胸おどる。水口博也、長野敦編著『絶景・秘境に息づく世界で一番美しいペンギン図鑑』
ペンギンを扱った図鑑は多く刊行されています。
精彩な写真を大きく、豊富に配したビジュアル重視のものが多くありますが、そのなかでもとくに美しいのが、水口博也、長野敦編著の『絶景・秘境に息づく世界で一番美しいペンギン図鑑』(誠文堂新光社)です。自分で一番って言うのかよ、と突っ込む気持ちが起こらないくらいに、まあ美しい写真が目白押し。撮影している著者の1人が鯨類の写真集や図鑑で高い評価を受けている水口博也さんなのですから当然といえば当然なのかもしれませんが、息を飲むページの連続です。見開きで配された仲睦まじそうなマカロニペンギンのつがいの写真など、額に入れて飾っておきたいと思える美しさ。背景まで綺麗に写った写真も多いので、ペンギンたちの暮らしている環境がよくわかります。
重要な点が、これが写真集ではないということです。ペンギン各種の生態やペンギンの進化、保全状況、コラムでは外来種がペンギンに与える影響など、学術的な事柄もしっかりと書かれており、しっかり「図鑑」としての役割を果たしてくれます。著者の2人のいずれもが、大学で正規の生物学教育を受けたのち、写真家・研究者として二足の草鞋を履きこなしてきた人物ですから、これも当然といえば当然ですが、まさに、「一粒で二度美味しい」本なのです。定価2400円で、写真集と図鑑のどっちも手に入ると考えれば、なんともお得といえるでしょう。
ペンギンに興味を持ったけど、どんな本を買えばいいかわからないよ、という人は、まずここから入るとよいのではないかと思います。
美しい。
世界で一番美しい ペンギン図鑑: 絶景・秘境に息づく (ネイチャー・ミュージアム)
- 作者: 水口博也,長野敦
- 出版社/メーカー: 誠文堂新光社
- 発売日: 2018/06/07
- メディア: 単行本
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動物園飼育員のお仕事がわかる。片野ゆか『動物翻訳家」
動物園には「レクリエーション」「教育」「研究」「種の保存」という4つの役割があると言われています。
いずれも重要な役割ですが、すべてに共通することは、動物を飼育管理下において行われるものである、ということです。
どんな大義名分があるにせよ、動物園を運営するためには、動物を本来の生息地から引き離し、限られた場所に閉じ込めなければいけません。そうである以上、飼育される動物たちへの福祉が不十分であれば、そこは見世物小屋や、マッドサイエンティストの人体実験施設と変わらないことになってしまいます。
だから、動物園スタッフは、動物たちにできる限り快適な環境を提供できるよう、さまざまな工夫をしています。この工夫のことを、「環境エンリッチメント」と呼びます。
環境エンリッチメントは広い意味を持つ言葉です。たとえば、動物がなるべくのびのびと過ごせるように広い飼育場を設けたり、植栽などによって生息地に近い空間を作り上げたりするような大掛かりな取り組みも含まれますし、動物が退屈しないようにおもちゃを与えるといった、手軽な取り組みも含まれます。動物が少しでも快適に過ごせるように尽くす「なんでもありのあの手この手」すべてが環境エンリッチメントに含まれます。
環境エンリッチメントは、動物福祉の観点から非常に重要なものです。そのため、NPO法人市民ズーネットワークでは、毎年その年にもっとも優れた取り組みを行ったと判断される施設に「環境エンリッチメント大賞」を授与し、取り組みを促進する活動を行なっています。
片野ゆか著『動物翻訳家』(集英社)は、この環境エンリッチメント大賞を受賞している4つの動物園に取材し、それぞれの施設で行われている取り組みについて、どのような思いから企画され、どのように実現させていったのかをドキュメンタリー形式でまとめた本です。取り上げられるのは、フンボルトペンギンの生息地であるチリのチロエ島の環境を再現した「ペンギンヒルズ」を有する埼玉県こども動物自然公園、樹上性であるチンパンジーが存分に木に登れるよう高木の森を模した「チンパンジーの森」を有する日立市かみね動物園、細やかなトレーニングによってアフリカハゲコウに自由に空を飛ばせることを可能にした秋吉台自然動物公園サファリランド、キリンが本来食べている「枝についた葉」を毎日高所に設置したり、キリンが自分ではなかなかかけない背中などをかきやすい棒を展示場に設けたりとキリンの要求を細やかに汲み取って飼育を続けている京都動物園の4つ。大掛かりな施設建設から飼育員の手による人海戦術まで含まれ、前述したように幅広いエンリッチメントの取り組みがよくわかる構成となっています。
読んでいて唸らされるのは、登場する飼育員の方々がみな、「そこまで考えるのか」と驚くほど、深く、細やかに動物のことを考え抜いていること、そしてそれを実現するために、粘り強く行動し続けていること。動物たちを丹念に観察しながら、「できることは全部やる」という姿勢で改善を進めていく姿には、敬意を抱かずにはいられません。物言わぬ動物たちの要求を汲み取り、展示や飼育方法として形に変換していく姿は、まさに「動物翻訳家」と呼ぶのがふさわしいものです。
普段、私たちが楽しく動物を見ている動物園が、どんな努力により成り立っているのか、そこで働いている人たちはどんな思いで仕事をしているのか。本書は、動物園に対するより深い理解を、私たちに与えてくれることでしょう。
読み終える頃にはきっと、動物園へ向ける眼差しが変わっていることと思います。
是非是非読んでみてください。