ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

人とペンギンの関わりがわかる。上田一生『ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ』

 ペンギンといえば南極、という世間のイメージは、まだまだ根強いものです。一般向けのグッズなどでは、多くの場合、ペンギンが氷山とともに描かれています。

だから、ペンギンのことを調べてみようと思った人がまず驚くのは、「ほとんどのペンギンは南極にはいない」ということかもしれません。

基本的には寒冷な地域に生息する鳥ではありますが、実際のところ、南極の大陸部で営巣するペンギンは、コウテイペンギンアデリーペンギンの2種だけ。ほとんどのペンギンは、より緯度の低い亜南極の島々で営巣していて、フンボルトペンギンのように温帯域、ガラパゴスペンギンのように赤道直下で営巣する種さえいます。南極のペンギンは、むしろ例外的といえるのです。

となると、すぐ頭に浮かぶのは、次のような問いでしょう。

ならば私たちはなぜ、そしていつから、ペンギンは南極の生き物だと錯覚していた?

そのような、人間とペンギンの関わりについての疑問に答えてくれるのが、上田一生著『ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ』(岩波書店)です。この本では、人間がペンギンとどのようにして出会い、どのように接してきたのか、その歴史が、6000年ほど遡ったところから語られます。古代の人々がどのようにペンギンをとらえていたのか、はじめて西洋人に発見され、名前の付けられたペンギンはどの種だったのか、「ペンギン」という名前の由来は何か、世界ではじめて、動物園でペンギンが飼育されたのはいつか、それは何ペンギンだったのか、日本の動物園ではじめてペンギンが飼育されたのはいつで、何ペンギンだったのか、近現代の人々は、ペンギンをどのように利用してきたのか、そして、「ペンギンといえば南極」というイメージは、いつどこで生まれたものなのか。本書では、インターネットで調べてみてもイマイチ要領を得ないような事柄まで、膨大な史料をもとに解説されています。ペンギンに関する歴史的な疑問の多くは、本書を読むことで氷解することでしょう(少しほのめかしておくと、「ペンギン=南極」のイメージは、動物園の展示に革命をもたらしたさる人物の「やりすぎ」に起因しています。そしてそれ以前には、ペンギンは現代のような「自然に近い」形で展示されていることもあったようです)。

なお、人間と野生動物との関わりを記した書物の多くと同様に、本書にも読むのがつらい部分が含まれてます。大航海時代から20世紀初頭にかけて、人間がペンギンに、そして「元祖ペンギン」であるオオウミガラスに対して行った仕打ちは、とても冷静に受け止められるものではありません。しかし、それらの記述も、私たちがこれからペンギンたちとどのように関わっていくべきなのか考えるうえで、きっと重要なヒントとなってくれるはずです(むしろ20世紀初頭という早い段階から、生物の持続的利用を達成していた人物がいること、ペンギンを保全する機運が高まっていたことを、意外に思う人もいるかもしれません)。

ペンギンについて、生物学的に解説する本は数多くありますが、本書のように、ペンギンに的を絞って歴史的、文化的側面からアプローチした本はほとんどみられません(和書でいえば、川端裕人著『ペンギン、日本人と出会う』(文藝春秋)くらいでしょうか)。刊行が2006年であるため、近年の動き(すみだ水族館の開館、サンシャイン水族館のリニューアル、けものフレンズなどなど)はカバーしきれていませんが、貴重な本であることは間違いがないでしょう。児童文学などのフィクションのなかでペンギンがどのように扱われてきたかなど、オタクにとって嬉しい情報も豊富です。

ペンギンについてより詳しく知りたいという方には、オススメの1冊です。

ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ

ペンギンは歴史にもクチバシをはさむ