ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

独断と偏見のペンギン図鑑2:コウテイペンギン

基本データ

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和名:コウテイペンギン

英名:Emperor penguin

学名:Aptenodytes forsteri

体長:100〜130cm

分布:南極とその周辺、南緯54〜78度の範囲。ロス海域、ウェッデル海東南極に大規模なコロニーがある。

生息状況:準絶滅危惧種。23万8000つがいほど

特徴1:大きい

コウテイペンギンの特徴はなんといっても大きいことである。現生のペンギンのなかでもっとも大きく、体長130cm、直立したときの身長は120cmほどになるものもいる。120cmといえば、小学校1〜2年生の平均身長くらいである。大きい。さらに南極の冬に耐えるため丸々とした体をしているので、体重は40kg近くになることもある。重い。存在感の大きさでいえば、人の子など足元にも及ばない。水族館で飼育されている個体でも、独特の迫力と荘厳さをまとっている。野生の姿を目にすれば、おそらく神々しささえ感じることだろう。多くのナチュラリストがこのペンギンに魅せられ、過酷な南極への旅へと繰り返し出かけるが、その気持ちはとてもよくわかる気がする。

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隣で威張っているアデリーペンギンと比べると、その大きさがよくわかる

ちなみに、「けものフレンズ」に登場するコウテイペンギンのフレンズはこの特徴を反映してか、ほかのペンギンのフレンズに比べて体の一部に圧倒的な神々しさが以下略。

特徴2:ユーモラス

ペンギンは総じてユーモラスな生き物であるが、コウテイペンギンのそれはまた群を抜いていると思う(神々しさはどこへ行った?)。

多くのペンギンは、歩くとき、多かれ少なかれフリッパーを広げてバランスをとる。しかし、しばしばブリザードの吹きすさぶ冬の南極を行進しなければならないコウテイペンギンは、フリッパーから体温が逃げないように(脇の下には血管が集中しているし、フリッパーのように薄く細長い形の部位からは熱が逃げやすい)、ほとんど広げず、「気をつけ」の姿勢で歩く。と、必然的に、「同じ側の手と足が一緒に前に出てしまう人」みたいな歩き方になる。フリッパーの代わりに体全体でバランスをとるので頭がゆらゆらと独特の揺れ方をするし、氷の上で滑らないように、歩幅が小さい。これらが合わさったコウテイペンギンの歩行は、なんともユーモラスにみえる。一列に並んでみんながそのように歩いている様子には、絶妙なおかしみがある。申し訳ないけれど(ちなみに雪道対策で言われる「ペンギン歩き」とは正確には「コウテイペンギン歩き」だと思う。イワトビペンギンの歩き方をしたら転ぶ。当たり前だけど)。

また、水中から飛び上がって上陸するとき、多くのペンギンは足から着地する。失敗して転ぶことがあったとしても、基本的に体操選手のように着地しようと試みている。しかし、コウテイペンギンはその体の大きさ、そして着地する場所がたいてい氷の上であるという安心感からか、ほぼそれを諦めているようにみえる。コウテイペンギンたちはほとんどの場合、その大きなお腹で着地する。ぼよんと軽くバウンドし、水中から飛び出したときの勢いで腹這いのままツーっと氷の上を滑っていく。紡錘形の体型のせいで、その姿はほとんど、打ち上げられたマグロみたいに見える。彼らの上陸を見るとちょっと笑ってしまう。本当に申し訳ないけれど。

このユーモラスさには、あるいは体の大きさも関係しているのかもしれない。体が大きいせいで、ほかのペンギンに比べていろんな動きが誇張されて見えてしまうということもあるはずだ。また、大きいぶん人間臭く見える、ということもあるだろう。だとしたら、笑うのはちょっとフェアではないかもしれないな、とは思う。

それでも笑うけど(ひどい)。

特徴3:力強い

前項でひどいことを書いたので、ここでフォローする。陸上でのコウテイペンギンはそんな感じだが、水中のコウテイペンギンはまるで別の生き物のようにかっこいい。ジェンツーペンギンの泳ぎはその疾走感に魅せられるが、コウテイペンギンの魅力は力強さだ。フリッパーを1度はばたかせるだけで、ぐんっ! と10mくらい進んでしまう。速度を維持するためにそのくらいでもう一度はばたくけれど、それがなくても25mくらいは余裕で進めてしまうような勢いである。わずかな動きで大きく進むので泳ぎに安定感があり、多くの海鳥のようなバタバタした印象を受けない。それが体の大きさと相まって、彼らの泳ぎを潜水艦みたいに見せている。とても見ごたえのある泳ぎだ。そのためか、水中にいるときのコウテイペンギンは、陸上にいるときの倍くらい大きいように見える。

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少ない動きで大きく進み、潜水艦のような力強さがある

また、先程は上陸の様子を笑ったが、水面から飛び上がるその瞬間まではとてもかっこいい。浮力を利用し、水面めがけて滑空するように上昇、急加速していくその姿はミサイルのようである。このような姿を見ると、やはり水の生き物なのだな、ということが実感できる。

なお、コウテイペンギンはその気になれば400m以上潜ることができる。最大潜水深度の記録は564m、最長潜水時間の記録は22分である。けれども普段は100〜120mくらいの深さに短時間潜って餌を採ることが多く、最長潜水記録は、海氷の下で水面に出る場所がなかなか見つからなかったときのものであるという。もっと上は目指さないのだ。ペンギンだもの。

特徴4:イケメンである

個人的には、コウテイペンギンのいちばんの魅力はここだと思っている。完全に独断と偏見と妄想なので話半分で聞いていただけるとありがたいが、コウテイペンギンの雄はかなりのイケメンであると思う。

コウテイペンギンは冬の南極で繁殖し、2ヶ月間飲まず食わずで卵を温めるが、これは雄の仕事だ。雌は卵を産み、雄に託すと、さっさと餌を採りに出かけてしまう。もちろん、雌は自分の体を元手に卵に2ヶ月分の栄養を貯蔵し、産卵で体力を消耗しているのだから、それは当然のことではある。しかし、日本人の雄を見慣れていると、雌を送り出して2ヶ月間絶食に耐えるコウテイペンギンの雄が神様みたいに見えてしまう。コウテイペンギンの成体がもっとも死ぬのはこの期間だといわれる。それでも耐えるのだ。かっこいい。さらに、2ヶ月経って帰ってきた雌と交代した後、自分自身が餌を食べて雛の分の餌を採ってくるのに使う時間は25日ほどだ。雌の2ヶ月に対し25日。卵のときと違って孵化した雛にはどんどん餌をやらなければいけないからこれまた当然ではあるのだが、それでもやっぱりかっこいいと思う。

もっとも、ペンギンの雄は動物全体でみれば、総じてよい夫、よい父親である。卵が生まれたらまず雄が暖め、雌が採餌にいくのは他種でも見られる。それでも、南極の冬にそれを受け入れているコウテイペンギンは輪をかけて献身的であるように思えてしまうのである。

まとめ

ペンギンはその直立した姿から、「人鳥」の字があてられるけれども、勇壮さもユーモラスさも、やさしさも兼ね備えた(ように見える)コウテイペンギンはそれこそ、「こんな人がいたら素敵ではないか?」と思わせるペンギンである。もちろん、安直な擬人化は避けるべきであるのだが(たとえばコウテイペンギンは自分たちの子ども以外の雛に餌を与える珍しい鳥だが、育てたい欲のあまりよその子を奪おうとして死なせてしまうこともあるので、一概に「やさしい」と評価することはできない)、そうしたくなる何かがある、不思議な鳥である。コウテイペンギンの魅力の根源は、その辺にあるのではないかと私は思っている。

雛がかわいいとは、あえて書かない。

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