ペンギンの話

ペンギンのことをつらつら書いていきます。

ペンギンの「戸籍」の話

日本はペンギン飼育大国で、日本の水族館や動物園では、全19種のペンギンのうち12種までを見ることができます。とくにフンボルトペンギンの飼育個体数は世界一で、世界中で飼われているフンボルトペンギンの4分の1が日本にいるといわれています。

そのため、日本にいると「ありふれている」と感じてしまうペンギンですが、実際には、多くの種が絶滅の危機に晒されています。人間の活動圏と生息地が重なるフンボルトペンギンなどの温帯性のペンギンはとくにその恐れが強く、人間の活動による撹乱の少ない南極、亜南極に生息するペンギンたちも、気候変動の影響を少なからず受けています。

動物園・水族館では、このように絶滅の危機に晒されている動物種を保護するための活動が行われています。その中心となるのが、飼育下の動物たちの繁殖計画です。

人間の活動により生息地が破壊されてしまった動物たちは、残されたわずかな生息地に異常があれば、それだけで絶滅してしまうかもしれません。そうなった場合にも、飼育下で生き残っている動物がいれば、人の手で生息地を再生させ、そこへ戻すことで、元の生態系を蘇らせるチャンスが生まれます(実際には、とても難しいことではあるのですが)。

しかし、飼育下の限られた数の動物たちを「そうなったとき」に備えて維持していくためには、計画的に繁殖させていくことが必要です。人間と同じように、動物も、血縁の深い個体同士で繁殖をしていると、病気などの弊害が現れ、子孫を繋いでいくことができなくなってしまいます。個体群を維持していくためには、なるべく血縁の遠い個体同士で繁殖させ、遺伝的な多様性を確保していかなくてはなりません。そこで、多くの動物園・水族館が加盟する日本動物園水族館協会では、とくに保存が必要と考えられる11のグループ、150の種について、「戸籍」を作り、計画的な繁殖のための血統管理を行っています。

日本で飼育されているペンギンたちのほとんども、この150種のなかに含まれ、「戸籍」が作られています。この「戸籍」に基づき、繁殖のために、どの個体を他の施設へ婿・嫁に出すか、などの判断が行われているのです。

動物たちの「戸籍」は、レッサーパンダであれば静岡市立日本平動物園、コアラであれば名古屋市東山動植物園というように、種ごとに特定の動物園や水族館が管理を担当しています。管理を担当する動物園・水族館を、その種の「種別調整者」と呼びます。

ペンギン各種の種別調整者は、以下の通り。

コウテイペンギンについては、現時点では種別調整者は設けられていません。南極大陸に生息するため人間の活動の影響が少なく、絶滅の恐れが比較的小さいこと、国内ではアドベンチャーワールド名古屋港水族館の2施設でしか飼育されておらず、全国的な管理が不要であること(名古屋港水族館の個体はアドベンチャーワールドから譲渡されたもの)などが理由ではないかと思われます。

このような血統管理の取り組みは、種の保存はもちろんのこと、日本の動物園や水族館で多様な動物たちを観られ、自然環境について学ぶことのできる環境をいつまでも保っていくためにも大切なものです。

私たちが動物園や水族館で楽しい時間を過ごすことができるのは、スタッフの方々のこのような努力があるからといえます。動物園や水族館へ足を運ばれた際には、そのことにも少しだけ、思いを巡らせてみてはいかがでしょうか。