独断と偏見のペンギン図鑑1:ジェンツーペンギン
基本データ
和名:ジェンツーペンギン
英名:Gentoo penguin
学名:Pygoscelis papua
体長:75〜90cm
分布:南緯46〜65度の亜南極の島々および南極半島。フォークランド諸島、サウスジョージア島、ケルゲレン島に最大規模のコロニーがみられる。
生息状況:準絶滅危惧種(NT)。38万7000つがいほど。
特徴1:かわいい
ジェンツーペンギンは世界でもっともかわいいペンギンである。異論は認めない。つぶらな目を縁取る白いアイリングと、そこから頭頂部へつながる白いバンド模様、オレンジ色の嘴、全ペンギンのなかで唯一の黄色いあんよで、お尻の穴まで黄色い。すべてがかわいい。
外観だけでなく、その性格もかわいらしさに拍車をかけている。活発で攻撃的な同属の仲間たち(オオトウゾクカモメを撃退するほどの威嚇をみせるアデリーペンギン、多くの種が天敵に対してはラインを保って防御するところ、自分から差し込みに行くヒゲペンギン)と異なり、ジェンツーペンギンは「温順ペンギン」とよばれるほどおっとり穏やかな性格なのである。ガラパゴス島生まれの自然写真家テュイ・ド・ロイは、著書『PENGUINS: Their World, Their Ways』(上田一生監修による邦訳『新しい、美しいペンギン図鑑』がX-Knowledgeから刊行されている)でこんな記述をしている。
ジェンツーペンギンは、のんきなところが愛らしいと思う。せわしなく過ごす同属の他の種より、暮らしぶりがゆっくりと落ち着いている。
(中略)
南極半島周辺のあちこちで出会ったジェンツーペンギンとの思い出はどれも和やかなものだった。私に興味を持ったヒナがよちよち歩きで寄ってきたり、ズボンの裾や袖を引っ張ったりしたことはよくあったし、あるときなどは、私がじっと地面にすわっていたらペンギンが私の足にすっかり寄りかかって寝てしまったこともあった。
(中略)
ジェンツーペンギンの暮らしぶりを見ていると、どこかほっとして心がおちつく。
これを読むだけで、ほっこりほわほわした気持ちになるのではなかろうか。なお、ロイはジェンツーペンギンについての12ツイートほどの文章の中で、「のんき」「おっとり」「和やか」「おちつく」「ほっとして」といった言葉を合計7回使っている。そうしたくなるような生き物なのである。トウゾクカモメなど1羽残らず駆逐してやる、といった気概を見せるアデリーやヒゲと異なり、驚いて巣から逃げやすいというのもまたかわいい。
特徴2:速い
ジェンツーペンギンの泳ぐ速さは、ペンギンの中でもっとも速いとされている。エネルギー効率重視の巡航速度はそれほど変わらないが、天敵から逃げるときなどのトップスピードは時速36kmにもなるという。平均時速と比べるのは手法としてフェアではないが、人間の水泳自由形の世界記録が時速7.6kmほどなので、その5倍近く速いことになる。飼育下では、なかなかトップスピードを目の当たりにすることはできないかもしれない。けれど、餌の時間などには水中をビュンビュン飛び回る姿が見られるはずなので、観察してみるとよい。なお、潜水深度もなかなかで、200mの深さに潜ることもある。
また、ペンギンの中では走るのも速い。ジェンツーペンギンはヒナを育てるとき、2羽生まれるヒナを競わせ、より素早いほうに多くの餌を与えるので、そのスパルタ教育が活きている……というのは妄想だが、想像以上に速く走れる。
おっとりした性格の割に、運動神経抜群なのである。
特徴3:大きい
ジェンツーペンギンは、コウテイペンギン、オウサマペンギンに次いで、3番目に大きなペンギンである。体長は75〜90cmほどで、同属のアデリーペンギンやヒゲペンギンよりもひとまわり大きくなる。
数字で聞いても「ふーん」で終わってしまうかもしれないが、実物を見ると、驚くに違いない。ペンギンの90cmは、でかい。ペンギンの体長はうつ伏せにして嘴の先から尾羽の先まで測るので、立ち上がったときの身長は数字より小さくなるけれど、それでも生で見るジェンツーペンギンは、想像以上に大きく、存在感がある。とくに大型で嘴の長い亜種キタジェンツーペンギンは、近くに寄ってくるとコウテイペンギン、オウサマペンギンばりの迫力を発揮する。多くの水族館ではペンギン水槽の水面が頭の高さくらいにくるはずだから、ガラス面近くで水面をプカプカ漂っているジェンツーペンギンをよく見てみるといい。頭でかっ、目ぇでかっ! となるはずだ。かわいい(うるさい)。
ちなみに、「けものフレンズ」に登場するジェンツーペンギンのフレンズは、この存在感を反映してかほかの多くのペンギンのフレンズに比べて体の一部が以下略。
特徴4:たくましい
種ごとに特殊な環境に適応していることの多いペンギンのなかで、ジェンツーペンギンは例外的に様々な環境に対応している。雪に囲まれ吹雪にも見舞われる南極半島の海岸からフォークランド諸島の草原まで、さまざまな場所で営巣するし、甲殻類、イカ、深海魚、オキアミまでなんでも餌にする。南極付近に生息するペンギンのなかで、冬の間のみとはいえ日本で屋外飼育ができるのはこのペンギンくらいだろう。定住生活をしているので繁殖の自由度が高く、好適な気候条件が整ったらささっと繁殖する柔軟性もある。
まとめ
というわけで、ジェンツーペンギンは、美しく性格がよく、運動神経がよくて存在感もある、ペンギン界の万能選手なのである。そのスペックの高さから私の中ではベスト・オブ・ペンギンに輝いている。比較的繁殖しやすく日本の動物園・水族館で見る機会も多いので、ぜひ会いにいって、その魅力に酔いしれてほしい。
ジェンツーペンギンをみられる動物園・水族館
亜種キタジェンツーペンギンP. p. papua
旭山動物園、豊橋総合動植物公園、のいち動物公園、小樽水族館、登別マリンパークニクス、八景島シーパラダイス
亜種ミナミジェンツーペンギンP. p. ellsworthi
那須どうぶつ王国、アドベンチャーワールド、男鹿水族館GAO、南知多ビーチランド、海遊館、しまね海洋館
亜種記載なし
福山動物園、(仙台うみの杜水族館)、鴨川シーワールド、マクセルアクアパーク品川、(箱根園水族館)、越前松島水族館、名古屋港水族館、(しものせき水族館海響館)、長崎ペンギン水族館
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